隣のクラスの東姫さんと、二人きりで話をしている。放課後の無人になった教室で、机の上に座りながら。

「でさー、昨日忘れた傘が無くなってたわけー」「うわー辛いね」

 東姫さんは今日もかわいい。くりくりした瞳に流れるような黒髪、そのどれもが目を引く。
 ふと、思い出したかのように彼女は弁当箱から何かを取り出した。
それはさくらんぼだった。おおよそ昼のデザートだったのだろう。

「私ね、ベロでさくらんぼのヘタ結べるんだよ」

 ぺろりとピンク色の舌を見せながら、東姫さんは扇情的に笑った。

「見せてよ」「うん、今からやってみせるね。んあー……」

 そう言いながら、東姫さんは口を開く。その瞬間に一瞬だけ、口の中にねちゃあと唾液の糸が張った。その奥にあるぬったりした舌がさくらんぼを捉えると、あっという間に実へ絡みつく。唾液をたっぷり纏わせながらさくらんぼを少しばかりしゃぶると、甘い吐息と共に舌を妖艶にくねらせた。
 ちゅばぁ……と音を立てて東姫さんが口の中からさくらんぼを引き抜くと、そのヘタは既に結ばっていた。
 俺はごくりと唾を飲み込み、その場に立ち尽くす。

「んふっ……どう?すごいでしょ」
「うん……すごいエロかった」
「あははっ、ありがと」

 今まで対して気にも留めていなかったが、東姫さんの舌は赤くてぬめぬめしていて、とてもいやらしい。唾液に濡れた赤い唇も、その口元すべてが。

「……それできる人って、キス上手いらしいよ」

 それが何の疚しさもない言葉だったかと言われたら嘘になる。
 東姫さんはわずかにきょとんとした顔をして、すぐにゆらりと笑った。それから俺のそばに寄り、体を密着させながら顔を近づけて色っぽく呟く。

「……されたいの?」

 甘い吐息が吹きかけられる。彼女の手が俺の首に回されると、もう逃げることなどできない。