「乗っていただけなのに解雇…」ダイヤモンド・プリンセス号の乗客が下船後に見た"地獄"
https://news.yahoo.co.jp/articles/84f5ab05f5f99b6cbc60fb6c954ccc07ff509a97

■解雇通知

 次なる災難が、追い打ちをかけるようにやってきた。

 「あなたのほうから、ご迷惑をおかけしましたと言って辞めていただきたい」

 美佐子が勤め先からそう宣告されたのは、退院してまもなくのことだった。

 ある財団法人の事務局で、事務員をしていたのだ。アルバイトに近いものであったが、それでも10年続けた愛着のある仕事だった。休暇をとってクルーズ船の旅に出ることは、もちろん申し出て許可を得たうえでのことだった。思いがけぬコロナ騒ぎで休みの期間はかなり延びていたが、そろそろ復帰できそうだと連絡をとりはじめたとき、上司から電話がかかってきた。

 「あなたが、あの船に乗っていたことをみなさんが知ったら、大変なことになるでしょう?  だから、辞めていただきたいんです。別にあなたに責任のあることじゃないのはわかっているけれど、あなたの代わりに、もう次の人を頼んであるから、来ていただかなくて結構です」

 この間に入院していたことまでは、まだ話していなかった。だから、夫婦とも陽性だったことを、相手は知らないはずである。コロナの集団感染が起きたダイヤモンド・プリンセスに乗っていたという、ただそれだけの情報で、解雇を決められてしまった。もう別の人を雇い入れているとまで言われては、それ以上、どうすることもできなかった。

 元気に見えても、実はウイルスを持っているかもしれないでしょう?  うちの関係者には年配の人が多くて、うつったら取り返しのつかないことになるから──。絵に描いたような偏見に、返す言葉も見つからなかった。

 「まるで私が菌みたい。近くに来られたら、みんなが困る存在だっていうの?  私、菌なの?」