0001風吹けば名無し
2022/06/01(水) 12:24:44.71ID:X6XN1m2+rhttps://news.yahoo.co.jp/articles/84f5ab05f5f99b6cbc60fb6c954ccc07ff509a97
■解雇通知
次なる災難が、追い打ちをかけるようにやってきた。
「あなたのほうから、ご迷惑をおかけしましたと言って辞めていただきたい」
美佐子が勤め先からそう宣告されたのは、退院してまもなくのことだった。
ある財団法人の事務局で、事務員をしていたのだ。アルバイトに近いものであったが、それでも10年続けた愛着のある仕事だった。休暇をとってクルーズ船の旅に出ることは、もちろん申し出て許可を得たうえでのことだった。思いがけぬコロナ騒ぎで休みの期間はかなり延びていたが、そろそろ復帰できそうだと連絡をとりはじめたとき、上司から電話がかかってきた。
「あなたが、あの船に乗っていたことをみなさんが知ったら、大変なことになるでしょう? だから、辞めていただきたいんです。別にあなたに責任のあることじゃないのはわかっているけれど、あなたの代わりに、もう次の人を頼んであるから、来ていただかなくて結構です」
この間に入院していたことまでは、まだ話していなかった。だから、夫婦とも陽性だったことを、相手は知らないはずである。コロナの集団感染が起きたダイヤモンド・プリンセスに乗っていたという、ただそれだけの情報で、解雇を決められてしまった。もう別の人を雇い入れているとまで言われては、それ以上、どうすることもできなかった。
元気に見えても、実はウイルスを持っているかもしれないでしょう? うちの関係者には年配の人が多くて、うつったら取り返しのつかないことになるから──。絵に描いたような偏見に、返す言葉も見つからなかった。
「まるで私が菌みたい。近くに来られたら、みんなが困る存在だっていうの? 私、菌なの?」