誰のための「AV新法」なのか 「リアル」を求める撮影現場の実態とずれた骨子案の危うさ

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 骨子案には契約の問題が細かく記されていた。契約に問題があれば訴えればいい、ということである。しかし、契約が盤石ならば被害は生まれないというのは、性暴力被害、AV被害の実態を知らない甘い考えだ。実際、契約書に自分の意思で自分の手で自分の名前を書いたとしても、それが完全に契約を理解したものだとは限らない。特に若ければ若いほど、判断は未熟なものになるだろう。


 例えば、今、AV業界では契約の際にカメラを回すことが求められている。それは強引な契約ではないということの証拠として、メーカー側に保存されるものだ。でも、考えてみてほしい。社会経験が圧倒的にない若い女性が、大人の男たちに囲まれていたらどうだろう。撮影の当日、ギリギリまで出たくないと思っているのに、「契約にサインしたのは君だよ?」「撮影をばらしたら、数百万円の損失になるよ」などと言われたら、断れなくなる。

 怒鳴られたわけではなく、殴られて出演を強いられたわけでもない。自分の手でサインし、自分の足で現場に向かい、自分で服を脱ぐ。でも、それはどこからが自分が決定したことなのか、どこからが諦めたことなのか……自分でも分からない。それが、AV出演の被害の実態だ。契約がしっかりしていればしているほど、被害を口にすることは難しくなる。ノーと言えなかった。怖かった。フリーズしていた。あれは性暴力だった。と思いながらも、被害の証拠を残せなくなるのだ。