【特別対談】対局というコミュニケーション
https://www.keidanren.or.jp/journal/monthly/2022/04_taidan.html

―AI(人工知能)は、将棋界にも革新的な影響を与えています。以前は、トップ棋士が指した棋譜を参考に研究していましたが、将棋ソフトが進化してからは、自分一人でも学べる環境になりました。羽生さんは、「AIの棋譜は美しくないと感じる時がある」と発言されていますが、どのような意味でしょうか。

羽生 そもそも人間が「美しい、芸術的だ」と感じるのは、時系列が関係しているように思います。時系列に沿って流れるようにスムーズで一貫性があると、美しいと感じるわけです。AIの指し手は、もちろん非常に正確ですが、一手一手、瞬間ごとに一番評価の高い手を選んでいくので、10手や20手など、連なった手の連続で見ると一貫性がなく、どういう方針か分からないところがあります。
瞬間ごとに判断するから過去にとらわれない強さがあるのでしょうが、美しさは感じ取れません。ただ、AIが人間の世界に入ってくると、人間の美的センスそのものも変わってくるでしょうから、これから先は分かりません。現状では、私はそういったところに違和感を抱いています。

藤井 AIの進化につれて、棋士達は今後一層AIを活用し、強くなる方法を模索していくことになりそうです。私達がAIの感覚に接しているうちに、羽生先生が話されたように、人間の感覚がAIの影響を受けて変わっていくことも、さらに起きてくるのではないでしょうか。

羽生 AIはものすごい速度で進化しており、バージョンアップした優れたソフトが毎年出てきますので、そうしたものを取り入れて吸収していくのは人間の役割です。今のところAIは、人間の生活を便利に、快適に、楽にするという目的のために使われているわけですが、将棋の世界での使われ方は、AIから学んで自分自身のスキルを上げていくという作業です。
例えば、藤井さんは、いわゆるデジタル・ネイティブという、AIを特別なものとせず、日常的に接し続けてきた最初の世代です。藤井さんがどう活用しているか詳細は知りませんが、AIを上手に使いこなして能力や才能を伸ばすことに先駆けて取り組んでいる、ということになります。藤井さんが前進して切り拓いた道が、次の世代の人達にとって、間違いなく大きな財産になるでしょう。