「濱崎さん、今何歳なん?」
 磯臭いヨットハーバーの桟橋。ベテランの整備士二人が、ヨットのエンジン部分を弄りながら、与太話に華を咲かせていた。
「ああ、あの子な。たぶん、二十代中盤と違うか?」
「え?そんな歳いっとったか。なんやろ?就活うまくいかんかったんかな?」
「知らんがな。まあ、本人がいいなら、いいんとちゃうの?」
「まあ、そうかもしれんが。ただ、ここ最近ずっと不景気やがな。いい加減しっかりせんといけのと違うか?」
「それもそうやな」
 二人の雑談を、順Pは黙って聞いていた。彼らの背後に佇みながら、息を殺して、下を俯きながら、頼まれて持ってきた道具箱を力強く握った。
(なんや。そんなのあんたらに関係ないやないか)
 順Pの顔は、絶妙な影を帯びた。