海中や瓦礫から発見されたご遺体はどれもこれも全身の損傷がひどく、躯全体は腐敗ガスで膨らみ舌は腫れあがり
手足は折れ曲がっていた。肌は蝋のように半透明な灰色でヘドロの色素が染み付いたのだろうか、
洗っても落ちない群青色の刺青にも似た斑点が散在していた。なかには頭皮は半分削げ落ちて
一方の眼球は飛び出し片方が無くなったものもあった。いわゆる土左衛門である。
もちろん異臭は半端なものではない。僅かに残った爪のマニキュアなどから辛うじて若い女性と判断できたものがあったが、
あまりに損傷が激しいと恥毛に残っている僅かな白髪から年齢を40〜70歳と判断するしかないご遺体もあった。
午後に発見されたご遺体は、すでに白骨化しかけていて体中の穴という穴から蛆が湧いていた。
いままでにも沢山のご遺体を見てきたが、蛆が湧いたご遺体は初めての経験であった。

昼に休憩時間をもらったが休憩所などはなかった。警察官や係員は屋外に椅子を出し座って談笑しながら
おいしそうに弁当を食べていた。慣れとは恐ろしいもので、よくこの悪臭のなかで飯が食えるものだと感心しながら、
私は校庭に駐車した県警のワゴン車の内で休憩を取った。少しでも食べておかないとと思いながら
小さいほうのおにぎりを一つ食べた。少々のことには動じないと思っていたが、さすがにこの悪臭の中では食欲がなかった。

https://www.ginga.or.jp/isikyo/tayori/83/report.html