「手術なし性別変更」家事審判で認める…

最高裁が手術要件「違憲」判断、当事者が公表
2024/02/07 22:11

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 性同一性障害と診断され、生殖能力をなくす手術を望まない岡山県在住の申立人が戸籍上の性別変更を求めた家事審判で、岡山家裁津山支部(工藤優希裁判官)は7日、手術を事実上の要件とした性同一性障害特例法の規定は憲法に違反すると判断し、女性から男性への性別変更を認めた。昨年10月に最高裁が手術規定を「違憲・無効」と判断して以降、手術を受けずに性別変更が認められた司法判断を当事者が記者会見で公表するのは初めてとみられる。

性別変更が認められ、笑顔を見せる臼井さん(7日午後、岡山市北区で)
 申立人は、同県新庄村の農業、臼井 崇来人たかきーと さん(50)。臼井さんは女性として生まれ、2013年に心は男性と医師に診断された。交際する女性との結婚を望む一方、体への影響などを懸念して手術は避けてきた。

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 津山支部は手術規定について「手術を受けるか、性別変更を断念するかという過酷な二者択一を迫るものだ」と指摘。同規定を要件としない国が増えており、過剰な制約になっているとした上で、意思に反して身体への侵襲を受けない自由を保障した憲法13条に違反すると判断した。

 臼井さんは審判で、「性別変更後の性別と近い性器の外観を備えている」とする特例法の規定も違憲だと主張していた。津山支部はこの点の憲法判断はしなかったが、臼井さんはホルモン療法の効果などから外観要件を満たしているとして、性別変更を認めた。

 臼井さんは16年12月、戸籍上の性別変更を津山支部に申し立てたが、同支部と広島高裁岡山支部は請求を退け、最高裁第2小法廷は19年1月、手術規定を「現時点では合憲」と判断した上で、特別抗告を棄却した。

 しかし最高裁大法廷が昨年10月、別の申立人に対する決定で手術規定を違憲としたのを受け、昨年12月に改めて津山支部に性別変更を申し立てた。大法廷は「外観要件について2審で判断されていない」として審理を高裁に差し戻している。

 臼井さんは7日、岡山市内で記者会見を開き、「パートナーの女性との婚姻届が受理されず、社会を変えたいと思い訴え続けてきた。今後婚姻届を出したい」と笑顔で語った。

 国は最高裁決定後の昨年12月、性別変更に必要な医師の診断書で、生殖能力があるかどうかの記載を当面の間、不要にするとの通知を自治体や学会に出した。特例法の見直しなどの検討を進めているが、保守系議員を中心に慎重論も根強い。

 津山支部の判断について、棚村政行・早稲田大教授(家族法)は「事態の打開を図ろうとする裁判所の姿勢が見える」と評価。栗田佳泰・新潟大准教授(憲法)は「社会が混乱しないよう、丁寧に議論を深める必要がある」と話した。