中国の全国人民代表大会(全人代=国会)常務委員会が「中華民族の感情を傷つける服装は禁止する」との内容を盛り込んだ法改正案を公表したところ、中国の交流サービス(SNS)で統制強化に反発し「服装の自由」などを訴える声が広がったほか、法律専門家から「恣意(しい)的な運用につながる」と懸念の声が次々と上がる事態となっている。

全人代常務委は8月下旬、「治安管理処罰法」改正案の審議を開始。公表された改正案では、「公共の場で、中華民族の精神を損ない、感情を傷つける服装・表式を着用したり着用を強要したりする行為」などが新たな違法行為として盛り込まれた。これらの行為には、最大10日以上15日以下の拘留、5000元(約10万円)以下の罰金を科すという。

これに対し、清華大の労東燕教授(刑法学)は短文投稿サイト「微博(ウェイボー)」に「『中華民族の精神を損ない感情を傷つける』というのは非常に曖昧で、処罰の範囲が恣意的に拡大しやすい」と投稿し、これらの条文の削除を呼びかけた。また華東政法大の童之偉教授も「誰がどのような手続きで確認するのか」と疑問を呈し、北京大法学院の車浩教授も「不適切な法執行が、国民感情や国のイメージを大きく損なう可能性が高い」と警告した。

服装に関する統制を巡っては、2022年8月、江蘇省蘇州市で日本の浴衣を着て写真撮影を行っていた中国人女性が「公共秩序騒乱」の疑いで治安当局者に拘束され議論を呼んだ。SNS上では、こうした出来事と重ね合わせて「(日本に留学した作家や詩人の)魯迅や秋瑾も和服を着ていたが、中華民族の感情を傷つけると言うのか」など批判的なコメントが相次いだ。市民の関心は高く、全人代のウェブサイトで1日から始まった意見公募には、すでに6万件以上の意見が寄せられている。

治安管理処罰法は06年3月に施行。今回の法改正案では、「侮辱や罵倒、脅迫、包囲、阻止などで警察の法執行を妨害する行為」なども新たな処罰対象に加えられており、「国家安全」を重視する習近平指導部の姿勢が反映されている。