0001風吹けば名無し
2023/07/09(日) 08:10:37.00ID:gtk+v3Kg0ダンカン少尉は、膝の上に眠るエリクソン大佐の顔をじっと見続けた。落ち着きを湛えた目元や、やわらかな髭が、いつの間にか、優しかった兄の顔と重なるのだった。それはまるで、バレシア基地で亡くなった兄が、最愛の弟の膝の上でもう一度息を引き取るために、遠い道を帰ってきたかのようであった。
「兄さん、やさしい、やさしい兄さん!」
トビー・ダンカン少尉は、エリクソン大佐の頭を両腕で抱いたまま、声を上げて泣き始めた。悲しみが彼の髪を掴んで激しく揺さぶり、涙が次々に溢れて来て止めることができなかった。
それは、バレシア湾のシンカーの甲板で流すはずだった涙、数年間、歯を食いしばって我慢して来た涙であった。
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