オメラスという理想郷があった
美しい街並みと豊かな自然に囲まれ、王もいなければ奴隷もいない
この街の住人は何不自由なく幸せに生きていた

そんな理想郷の地下に一つの牢屋があった
窓もなくわずかな光さえ届かないその部屋に汚物に塗れ、やせ細った一人の子供が閉じ込められていた

実はオメラスの全ての住人はこの子供の存在を知っている
この子供の存在はオメラスの子供たちが物事を理解できるようになったと判断した大人の口から説明される

衝撃的な事実を知った子供たちは皆激しく憤り、そしてその子供を憐れむ
何かしてあげられないか、何ができるだろう
子供たちは何日も、何ヶ月も、時には何年も悩む
そしてやがて理解するのである、何もできないと
その子を閉じ込めておくことがオメラスの繁栄の絶対条件だからだ
かつて哀れな子供のために流した涙は大抵枯れるのだ

だか、ごく稀にその事実を知ってふいと家を出る者たちがいる
その者たちはオメラスの門をくぐり抜け、都市を出て、荒野へ入ってもなおも歩み続ける
まるで自らの行き先を心得ているかのように

彼らはどこへ行くのだろう
そして何を思っているのだろう