私は一度だけ「ぶつかり男」に抗議したことがありました。
10年くらい前、新宿駅の丸ノ内線の改札付近のことです。1人で歩いていたらダーン! と後ろからぶつかられ、例のごとく「無」で進んでいくその人を見ると、ちょうど改札に入ろうとしていました。突然の衝撃で上半身が痛かったし、そのぶつかりの重みに悪意を感じたし、今まで何人もぶつかられてそのまま何も言えなかったこともあいまって、思わず私は「わざとぶつからないでよ!」と後ろから言いました。

あえて「わざと」という言葉を入れたのを覚えています。わざと、としか思えないぶつかり方だったからです。改札という壁がなかったら恐ろしすぎて絶対に言えなかったけど、壁があることにより「もし相手が『わざとではない』と釈明してきたり、『お前が邪魔だからだ』と反論されたりしたら、相手の意見もちゃんと聞くぞ」と瞬間的に覚悟を決めることができました(直接の抗議は本当に危険だと思うのでオススメはしません)。

身長170㎝くらいのその男性は、一目で高級と分かるスーツに、腕には豪華な腕時計と装飾品をたくさんつけた、40代と思しきゴージャスな人でした。全身から「お金持ち」があふれているその男性は改札内から私を見るなり、声を張り上げて怒鳴ってきました。