男「友達の婚約者が死んだのか。通夜、面倒だな」
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友人「……」
男(呆けた顔をして、親に支えられるように立っていた)
男(交通事故だったらしい)
男(通夜や葬儀の空気は嫌いだ。辛気臭くて、ここにいたくなくなる…)
男(それ以上に面倒だった)
男(友人ならまだしも、その婚約者ってな。俺はこの先の人生、何度こうした無意味な場に出なければならないのだろうか)
男(昔から俺は感受性が薄かった)
男(別にサイコパスだとか、そういう話じゃない。加虐趣味があるわけでも、身勝手なわけでもない)
男(ただ、単純に、こうした場で特に思うことがない)
男(文化祭や体育祭もただ面倒だったし、部活も振り返ってみれば心に残ることが何もないし、特別また会いたいと強く思える相手がいるわけでもない)
男(別にそんな、たいそれたことでも変わったことでもないだろう) 友人「……」
男「今は無理すんなっていうか…」
男「その…俺大したこと言えないけどさ、元気出せよ」
友人「……」
男「えっと、なんか女っていっぱいいるわけだし」
男「ほ、ほら、元カノのが美人だったって愚痴零してたじゃん」
友人の父親「……」ピク
男(あ…)
友人「…お前、そういうところ昔からだよな」
友人「わざわざ怒る気にもならないわ。お前に悪意はないんだしな」 男「いや、ごめん…あの…」
友人「……」
友人の父親「……」
男(気まずい…)
男(アレを使うか)
男(俺にはちょっとした異能力があった)
男(いつからか…気付いたら、なんとなくあった力だ)
男(自分の思考を無にして、五感に対する意識を削ぎ落し、『逃げたい』とだけただ考える)
男(すると…)
*「大変だったねえ、友人ちゃん」
友人「…俺より、相手のご家族の方に、ただ申し訳ないです。娘さんを幸せにすると誓ったのに」
男(俺の意識が一分近く跳び…いつの間にか、周囲の関心がなんとなく俺から離れるのだ) 男「いや、ごめん…あの…」
友人「……」
友人の父親「……」
男(気まずい…)
男(アレを使うか)
男(俺にはちょっとした異能力があった)
男(いつからか…気付いたら、なんとなくあった力だ)
男(自分の思考を無にして、五感に対する意識を削ぎ落し、『逃げたい』とだけただ考える)
男(すると…)
*「大変だったねえ、友人ちゃん」
友人「…俺より、相手のご家族の方に、ただ申し訳ないです。娘さんを幸せにすると誓ったのに」
男(俺の意識が一分近く跳び…いつの間にか、周囲の関心がなんとなく俺から離れるのだ) 男(最初は俺のただの気の持ちようかと思ったけれど、どうやらこの一分間、誰も俺を認識できないらしい)
男(そして他の連中も、俺を認識できない事には気が付かない)
男(たとえるならジョジョのキングクリムゾンみたいな感じが近い)
男(消し飛んだ一分間、世界は俺抜きを前提に正常に回り出す)
男(これが特別な超能力なのかどうか俺には確かめるすべはないけれど)
男(それでも俺はこの力を重宝している) 男(無駄な時間だったな…)
警官「すみません。この辺りの人ですか?」
男「え、あ、いえ。今日はたまたま」
警官「失礼ですが、身分を証明できるものは?」
男「え…」
警官「現在、区内で通り魔事件が続いてまして」
警官「申し訳ないですが、目撃情報があなたと同じ、170cmのやや髪の長い男なんですよ」 男(そういえば聞いたことがある…見回り中の警官もその男に刺されたみたいだとかで)
男(俺も一人で帰るのを今日咎められた)
男「あの…そういうのいいんで、面倒なんで」
男「知らないし関係ないです」
警官「だから身分証明…」
男「それ強制力ないんですよね」
警官「あのね…強制力どうこうの話じゃないんだ。私達は、この街の人達のために捜査をしている」イラッ
警官「どうかご協力願えませんかね」
男(うざ…なんでこんなに必死なんだか) 男(昔から、なんだか必死な人間を見ていると腹が立つ)
男(どうせこの男も、身だしなみが悪くてどこか陰鬱な俺を見て疑わしいと感じたんだろう)
警官「免許でも保険証でも、何か見せてくれたらそれ以上手間は取らせませんよ」
男「…あ」
男(今、能力を使ったら切り抜けられるんじゃないか…?)
男(今この場で警官が突然俺を無視したら、そんなのいくらなんでも辻褄が合わない、異様な事態だ)
男(でも、だからこそ、俺の力の証明にもなる)
男(やってみる…か)ゴクッ 男(…まず奴から離れる)タッ
警官「あっ、オイ!」
男(そして自分の意識と五感を消す…!)
男(俺はここから逃げる!)
警官「待てよ、キミ!」
男(やっぱり起こるわけないよな…)
警官「…あれ、私は何を」
男「…」
男(…え?)
男(おいおい…まさか、本当に成功したのか?)ゴクッ 男(距離が取れてる…警官も追ってきてない!)
男(今までいい加減になんとなくでしか使ってこなかったけど…)
男(これ、本当にとんでもないことなんじゃないか!?)
男(上手く使えば、大金持ちになれるかも…!)
男(俺の意識が飛んでいた一分前後…俺はどうやら帰路を歩き続けていたらしい)
男(そしてあの警官は、あの場で留まってぼうっとしていた…)
男(こんなとんでもないこと、起こっていいのかよ!)
男(あんなにしつこかった警官が!)ソワソワ 男(夢じゃないのかよこれ…!)
男(でもこの力の有効活用なんてどうすれば)
警官「なんでここに棒立ちして…そ、そうだ! 私は今…!」
警官「おいキミ…お前! 止まれ!」
男(気付いたのか?)
男(そうか、警官にとって、自分があの場に留まっていた他の理由がないから…)
男(恐らく意識を逸らせるだけで、思考の論理や記憶なんかを改変することはできないんだな)
男(だとしても…あの警官からこのまま『悠々と歩いて逃げ切る』ことくらい、簡単なんじゃないのか?)ニヤ う~ん…
今は時間が悪いみたいやね
また立て直すわ 死ぬまでカルビ食べ放題vs死ぬまでキャベツ食べ放題
にすら負けてんでもっと気張りや 警官「お前…なんでそう頑なに協力に応じない!」
男(煩い奴だな…)
男(まぁ、いいさ。このまま能力の実験台にしてやるよ)ニヤッ
スッ
警官「っ、また!? お、おい、お前…!」ダッ
男(無駄なのに)
スッ
警官「え、あ、あ…?」
男(どんどん距離が開いていく…)ゾクゾク
男(こりゃ、どんな奴も俺を捕まえられないぞ)
男(やばい、やばいやばい、ヤバすぎるだろ、これ…!) 男(あんな高圧的だった警官が、俺の手のひらの上だ…!)
男(どんな顔してるのが見てやろう…)
警官「…」
男(振り返って、俺はゾッとした)
男(警官の顔には、困惑の中に、憤怒と強い憎悪があった)
男(とんでもない力を手に入れて、むかつく凡人を小馬鹿にしてやろう、くらいの気持ちでいた)
男(その警官の負の感情を剥き出しにした顔を見て、なんだか俺は現実に引き戻されて、嫌な後味の悪さがあった) 男(からかうのはやめて、とっとと逃げよう…)
警官「顔は覚えたからな!お前!」
警官「変な手品で逃げられると思うなよ!」ダッ
男(飛んでくる罵声に心臓が鳴る。警官の足音が一気に近づいてくる)
男(超能力があるからって、こんな他人を弄ぶような真似はするべきじゃなかった)
男(元々俺は小心者なんだ)
男(それに…能力が、安定して発動しない!)
男(追われて感情が昂っているせいか、思考が無に出来ない!)
警官「お前だろ!先輩殺したの!おい!」
男「はぁ、はぁ…!」
男(気が付けば、俺はただ必死に逃げていた)
男(涙が出る、喉の奥が渇く、心臓が煩い)
男「はぁ、はぁ、はぁ…!」 警官「どこ行った!」
警官「絶対にお前を牢にぶち込んでやるからな!」
男「はぁ、はぁ、はぁ…!」
男(安定しない能力を駆使しつつ…どうにか俺は警官の視界から逃れることに成功した)
男(なんでこんなことになるんだよ、クソ…!)ガシガシ
男(顔…覚えられたんだろうか?)
男(俺は警官が去ってからもしばらく、路地裏に投棄された粗大ゴミの横で震えていた) 男(こんなに追い掛けることあるかよ、意味わからんねえよ)
男(警官ならもっと冷静になれよ、クソ…これ、ネットに流したら炎上もんだろ)
男(ここから駅…は、戻るのが怖いな…)
男(…しばらく反対側の方を歩いて、そこから適当に駅なりタクシーなり見つけよう)トボトボ
男(…無目的に知らない場所を歩くの、懐かしいな)
男(中高生の頃はよくやったっけ) 男(学生時代…集団で歩いてても、ふらっと俺だけ迷子になることがよくあった)
男(小学校の遠足でも、中学のサッカー部の試合でも、高校生の頃友達と遊びに行くときでも…)
男(その度に変わった奴とか、頭がおかしい奴とか陰口叩かれてた)
男(俺も集団行動ができないんだなって思ってたけど、今になってそれだけじゃないんだと思い返す)
男(集団の中にいると、孤立して浮いて、居た堪れないから…)
男(一人で、落ち着ける場所に行きたかったんだ)
男(要するに俺は、ただ逃げたくて逃げていただけなんだ)
男(思えばこんな力がなくたって、ずっと何かから逃げ続けるような人生だった)
『変な手品で逃げられると思うなよ!』
男「ひっ!」
男(幻聴…か?)キョロキョロ 男(能力のせいか、なんだかぼうっとして現実感がない…)
男(いや、通夜のときからそうだったか…)
男(今日は駄目だな。疲れてるんだ)
男(あいつに変なこと口走ったのだって、きっとそのせいだろ…うん)
男(マップアプリで駅を…)ピッピッ
男(あ…?)
男(地名検索が、できない…? 文字が入力すると消える…?)
男(地図画面も、スライドができない…?)
男「クソ、不具合かよ…適当に歩いて帰るか」 ■ このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています