「この炊き出しには毎週行くんですか?」
「カレーと中華丼が隔週で出されるので、カレーのときだけ行くようにしている。できれば中華丼には当たりたくないので。ただ、不意に中華丼が二週続くことがあるんだよね」

黒綿棒が中華丼を避けるのは、ただただカレーのほうが好きだからという理由に尽きる。
ホームレスは常に食べ物に困っているという先入観があったが、それは都内で生活するホームレスに限れば“完全な”思い過ごしであった。黒綿棒はこの日十四時から行われる都庁下の炊き出しにも苦言を呈する。

「トマトをさ、五個も六個もくれるでしょう。僕らは料理ができないのだからせめてプチトマトにするべきだとずっと思っている。どうかすると汁がほかの食料に浸食してしまう。でも捨てるにも捨てられないだろう」

たしかに、大粒のトマトを六個も渡されたところで保存も効かないので食いきれないのだ。

そして何より飽きる。恵んでもらっている立場で言うことではないが、これがホームレスの本音だ。公園で鳩にトマトをあげているホームレスもいた。しかし、鳩もトマトは口に合わないようで手を付けていなかった。

https://president.jp/articles/-/60302