君はすぐに結論づけようとする。彼はUCCの不味いコーヒーを飲みながら切り出した。「損しているよ」
「損? 内からこみ上げるエロスというものは、損得で測れる類のものではないはずだよ。ダ・ヴィンチの絵画を前に、人が言葉を忘れるように。ヴェネチアの水路に、どこか郷愁を感じずにはいられないように」
「そうじゃない」頭を振る彼は、出来の悪い生徒を見つめるようだった。加藤という、高慢な教師を思い出した。
「エロスは共有すれば味が薄れる」
「味?」聞いたことのない表現だ。
「そうさ。エロスはエロスでも、内にこもって一人で発散するからこそエロスとしての鮮度を保てる。同級生の下着を見てしまい、授業中悶々と反芻する。それこそが真のエロだ。えちえちと殊更に騒ぎ立てることは、何かに主張するように感じて虚しいよ」
僕は苦笑した。