あれは任豚が6歳のときのことでした。
無免許・未成年・無保険・飲酒・スピード違反の車にはねられてお母さんが事故死。
任豚は軽症で済みましたが、母の凄惨な死を目の当たりにしたショックで、心の成長が止まってしまったのでした。

あれから40年。
任豚は今年も七夕が近くなると、病院に飾られた笹の葉に「ママがかえってきますように」と書いた短冊をぶら下げるのです。
なお、12月にはクリスマスにもクリスマスツリーに短冊をぶら下げます。

とても素直でいい子で、屈託の無い笑顔で
「たなばたにはママにあえるんだ^^ かみさまにいーっぱいおねがいしたんだよっっ!!」
と周囲に伝えて回るのを、看護師の私は笑顔で受け答えしながらも、内心はとてもかわいそうでいたたまれなくなります。
死んだ人間が帰ってこないことを理解させるには彼の精神年齢では幼なすぎる、という
主治医の先生の判断もあり、本人に本当のことを言うのはタブーです。

先生によると、彼は40年間毎年のように同じ行動を繰り返しているそうです。
毎年七夕やクリスマスの朝、お母さんが帰ってきていないことを知ると、任豚は嘆き悲しみのあまり体調を崩して
41度の熱を出して嘔吐下痢下血して寝込んでしまうのですが、
数日して回復すると前のことを完全に忘れてしまい、また次に向けて短冊を作り始めるのです。

唯一の肉親である父親も膵臓がんで余命わずか。
任豚がこの先どうやって生きていくのだろうと思うと不憫でなりません。