「結婚しました」。5月19日、秋田県横手市の会社員高橋直輝さん(45)=仮名=は長年の秘密を職場で打ち明けた。突然の告白に驚いた様子の上司たちに、こう付け加えた。「パートナーシップと言って、本当は結婚ではないんですけど」

前日、秋田市の男性(46)と秋田市役所でパートナーシップ制度の申請をした。LGBTら性的少数者のカップルを婚姻に相当する関係として認める制度で、市と秋田県は今年4月に導入したばかり。2人は申請第1号だった。

横手市で生まれ育った。中学生の頃、一緒に遊ぶ同性の友人に「どきっとする自分」に戸惑った。高校生の時、男性同性愛を描いたドラマを見て違和感は確信に変わる。偏見や差別を恐れ、隠し続ける日々が始まった。

地方ではうわさが広まるのが早い。結婚して子を残すのが普通という風潮も根強い。一人息子で親族から結婚の話が出るたび、「自分の代で家が終わる」と責任を感じた。

パートナーと出会ったのは8年前。初対面で「ビビッときた」。最期の瞬間に隣にいたい。だからこそ、家族と同様に公立病院の面会などが可能となる新しい制度は魅力的に映った。

1時間の手続きの後、2人の名前が書かれた証明カードと受領証を受け取った。愛する人と「家族」になれた喜び。「生きていてもいいのかな」と長く抱いていた不安が、和らぐのを感じた。

性的少数者に対する国の動きは鈍い。パートナーシップ制度は200以上の自治体が導入しているが、法的拘束力はない。約30の国や地域で可能になっている同性婚も認められていない。

政治家から「生産性がない」「LGBTばかりになったら国はつぶれる」といった言葉が漏れる。政治の世界に残る偏見と、進みつつある社会の理解。その間に大きなギャップがある。

「結婚しました」の後に何も付け足さなくても良いのが理想。「好きな人と結婚する」。当たり前がまだ遠く感じる。
(秋田総局・三浦夏子)

河北新報 2022年6月25日 16:00