裁判長も同情、妊娠したベトナム人技能実習生に冷たかった日本 借金抱え、受診も断られ、企業と監理団体は「気付かなかった」
https://news.yahoo.co.jp/articles/d28d04fb437da08052c1fa33ce0fcfdb86feb5df

 2020年11月、広島県東広島市の住宅で、庭に埋められた乳児の遺体が見つかった。死体遺棄容疑で逮捕されたのは技能実習生のベトナム人女性。自室のある社員寮で女児を産んだ後、必要な保護をしなかったために死亡させ、遺体を敷地内の土中に埋めたと判決で認定された。

 技能実習中の女性がひそかに妊娠・出産し、同様の罪に問われるケースが相次いでいる。「妊娠したら帰国させられる」と、実習生の間で信じられているためだ。制度上、妊娠・出産による不利益な扱いは禁じられているが、十分な相談体制もなく、必要な情報を得ていない実習生には分からない。多くは日本語が不自由で、地域との交流もなく孤立していることが、悲劇が繰り返される原因となっている。

 広島のベトナム人女性スオン・ティ・ボット被告(27)には逮捕後、判決までに広島拘置所で同僚記者と合わせて計8回接見し、彼女が置かれていた状況を詳しく聞いた。浮かび上がったのは、実習生を「安価な労働力」としか見ず、一人の人間として扱わない日本社会の冷たさだった。

 同じ実習生のベトナム人男性と交際関係になり、20年3月に体の異変に気付いて広島市内のクリニックを受診。妊娠が分かった。「私が堕ろしたいと言ったら、お医者さんは病院を紹介してくれた」。ただ、交際相手は妊娠を知ると一方的に連絡を絶った。

 約1週間後、紹介された東広島市の病院を1人で訪れた。しかし言葉が通じないのを理由に受診を拒否され、中絶できなかった。おなかが大きくなるにつれ、赤ちゃんの状況を心配して出産の約1カ月前、同じ病院を訪れた。

 公判での供述によると、今度は健康保険証を提出し、スマートフォンの翻訳アプリを使って問診票も書いたが、病院側は「通訳人の同行がない」として再び受診を拒んだ。

 記者がこの病院に事実関係を尋ねてみたところ「受診しておらず記録がないため、来たかどうか確認できない」とコメントした。

 おなかが大きい状態で働くのは苦しかったが、妊娠のことは会社や監理団体、家族にさえも打ち明けられなかった。「知られると帰国させられると思っていた」。もともと、日本に相談できるような人もいない。

 20年11月11日、体調不良を訴えて仕事を早退。自室で産気づき、廊下で赤ちゃんを出産した。妊娠を隠し続けてきたため、「人に泣き声を聞かれるのが怖かった」。泣きやまない赤ちゃんの口にテープを貼った。

 出血がひどく、自分の体に付いた血をシャワーで洗い流して戻ってくると、赤ちゃんは動かなくなっていた。遺体を部屋にあった段ボールに入れ、庭に穴を掘って埋めた。ベトナムは土葬を習慣とする国。赤ちゃんを埋葬し、弔う気持ちだった。一方で人に見られてはいけないという焦りも。「怖かったのに誰も頼れなかった」