ーー目が覚めたら若い男女がいた。      「可愛いね」と女が言う。          「楽しみだ」と男が言う。          男は全体的に白くて頭は腐っている。なんかヒョロヒョロしている。栄養が足りないのかな?心配だな。                   意識がハッキリしてからわかったことが2つある。 男女はよくぶつかり合いっこしてて血が出てくること。そして、男は私の体調が悪いとすぐに気づいてくれる。そんなあなたに惚れるまで時間はそう掛からなかった。
そろそろ春が来る。
部屋に虫が出始めてあなたは困っていた。私にも責任があるとあなたは笑いながら私を責めた。
大好きなあなたを困らせるのは、すごく悲しかった。でもね、もうすぐあなたを楽しませてあげられるから春は嫌いじゃないの。もうちょっとだけ待ってて。
そして、私はキレイになった。しなやかで柔らかくて綺麗で女の子らしくなった。 あなたに喜んでもらえるかな?
「綺麗だね」と女は言った。
「きれいに育ったな」とあなたは言った。
そうなの。私は今凄く綺麗なんだよ!誇らしかった。でも、あなたは横にいる女のせいであまり笑顔を見せてくれなかった。あの女が来ると部屋が爛れていくようだった。あなたにあの女と同じ空気を吸ってほしくない。毒されてほしくない。そんな女なんかより、私のことを見てほしい。私を見て笑顔になって。
そう思っていた春が終わりを迎えた。そして、私も。
「やだ。なにこれ。痩けててみすぼらしい。」
と女は言った。その通りだ。私は盛りを終えたのだ。あなたにこんな姿の私を見ないでほしい。
「やめろよ、佳恋。痩せこけても枯れててもこいつは魅力的だ。」とあなたは言った。皆目見当もつかなかった。今の私でもいいの?嬉しかった。もう思い残すことはないや。
ーそうして私は芽を閉じた。

       私
これが前回の金魚草の記憶。                               そして、秋になり私は目を開けた。
「菊乃。私のかわいいかわいい菊姫。」    何を言ってるの? 私は菊じゃなくて金魚草だよ?と伝えたかったけど、今回もまた喋れないや。                       18年後。
私は大学生になった。学部はもちろん科学部だ。
「菊乃ー。生物学科がどんな事するのか帰ってきたら教えてね。」と両親に見送だされた。   私は金魚草なんだけれどなーと相変わらず思っていたけれど、両親が愛おしそうに菊と呼ぶから嬉しさのがちょっとだけ勝った。        大学には高校から友達の凛も一緒だから心強い。高校の頃から上手く喋れない私をサポートしてくれるお人好しの子だ。            「次、実験だってよー。5号館の301号室だって」凛の言葉に私は右目をウィンクした。私達の間では右目ウィンクは楽しい、楽しみという意味だ。 いちいち紙に書かないよう、何個かボディーランゲージ決めよう!と凛から言い出してくれたのだ。                   そうして講義が始まった。          まずは教授の挨拶からだった。        「えー。皆さん。1年生では実験の基礎を学びますので心して…」長い。校長の朝会かよ。眠くなってきた。                 「えー、では、次に今年1年間助手をしてくれる准教授の内田 孝則くんと…」         
「え、准教授が助手とか人手不足ヤバくない?」「去年、理事長と校長がやらかして一斉にやめたらしいよ」と周りは言っている。       そうなのか。サークルに入れば私もそういう情報手に入るのかな。
「えー、最後に鳥屋 迅くんだ。」

ーー彼だ。
ーーもう会えるとは思っていなかったのに。まさかもう一度、あなたに会えるなんて