《危ない円安》ハイパーインフレで「新通貨」しかない=藤巻健史

私の長いディーラー人生の経験から、ドル・円の動向を決める2大要因は経常収支動向と日米金利差だと思っている。その2大要因が同時に円安方向へ、トレンドとして向いてきたのは初めての経験だ。

2013年に黒田日銀が異次元緩和を行ったことにより、政府はデフォルトを回避した。自国通貨のため、いくらでも紙幣を刷れるからだ。
 しかし、「紙幣をいくらでも刷れること」は「信用ある紙幣をいくらでも刷れること」を意味しない。刷りすぎれば紙幣価値の希薄化が進む。今、日銀が直面している最大の問題は「財政ファイナンス(政府の支出を中央銀行の信用供与によって賄うこと)」の結果、日銀が債務超過に陥る危機に直面していることだ。このような状態に陥っている中央銀行は日銀以外、世界に例はない。

また、短期の政策金利を上げる手法は現在、日銀当座預金ヘの付利金利引き上げしかないといわれている。日銀当座預金の残高は543兆円だから1%の付利金利引き上げにつき、5・4兆円もの支払金利増だ。
20年度の日銀の純利益は1兆2191億円に過ぎないから、利上げが始まればすぐに損失の垂れ流しが始まり、容易に債務超過に陥る。

日銀が債務超過になれば、政府が資本投入すればよい、という人がいるが、現在の政府財務は毎年巨額な赤字だ。債務超過分は日銀が刷った紙幣で国債を買い取り、政府がそのお金で資本投入をするとなれば「何、それ?」の世界だ。タコが自分の足を食べるようなことを発表すれば、その瞬間に日本売りが始まるだろう。

https://weekly-economist.mainichi.jp/articles/20220426/se1/00m/020/021000c