通知表をやめた小学校 常識に挑んだ校長が本当に変えたかったこと
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学年末。先生から手渡された通知表を手に、喜びの声をあげたり、こっそりとランドセルに隠したり。そんな子どもたちの姿が、各地の小学校の教室で見られる季節だ。でも、神奈川県の茅ケ崎市立香川小学校には、3年前から通知表がない。なぜなのか。国分一哉校長に聞いた。

 ――香川小学校では、2019年度を最後に通知表を廃止しました。初めて聞いたとき、そんなことができるのかと驚きました。

 「実は、通知表を出すか出さないかは、校長の判断で決められます。驚かれることが少なくありませんが、廃止したのは私たちの学校が初めてではありません。教育関係者の間では、長野県伊那市の小学校は通知表がないことが知られています」

 ――通知表を廃止したいという思いは以前からあったのですか。

 「必ずしも、そういうわけではありませんでした。きっかけは、20年度の教育指導要領の改訂でした。評価の観点が4観点から3観点に変わり、内容も大きく変わったので、それまでの通知表が使えなくなる。それにどう対応するか、18年度から教員たちと話し合いを始めました。ただそれは通知表を渡すことが前提の議論でした」

通知表が生み出す序列

 ――ではなぜ、やめる方向に?

 「児童や保護者にとって、通知表はとても大きな存在です。しかし、学校現場では問題意識はあったのです。多くの教員は、児童の努力や成長に着目したいと思って日々接しています。でも、学期の最後に通知表を渡すと、子どもたちは『よくできる』の数に一喜一憂して終わってしまう、という印象を持っていました」

 「児童の間にも、『よくできる』が多ければ自慢し、少なければ自分はダメだと卑下し、序列が生まれる雰囲気があった。通知表をすごく意識している子だと、『成績に関係ないならやらない』と言うことも。どうしたらこうした発想をなくせるだろうと考え、会議を重ねていく中で、『なくすこともできる?』という教員からの問いかけに、『ありだね』と僕は答えました」

 ――教員たちの反応は?

 「最初は、教員の中でも『通知表ってなくせるんだっけ?』という反応はありました。また、校長の裁量で廃止できると知っている教員も、『通知表をなくすことを本当に真剣に考えていいの?』という雰囲気でした。そこから、なくした場合や存続した場合のメリット、デメリットの検討を始めました」

 「通知表が自己肯定感に与える影響や、教室に生じる序列については、多くの教員が意識を共有していました。また、通知表作成に伴う『数値化』が、児童と保護者のみならず、教員のあり方に影響していたことも見えてきました」