親譲りの馬乗りとして、決まって良い馬に乗らないと気が済まないたちなのだが、その癖妙な癖を持っている。
つまりどんな名馬でも必ず負かすのだ。ことに一番大事な競走においては必ずと言っていいほどに負かす。
この男の馬の走り方ときたら、それはもうひどいものであり、まるで勝ち目のない位置取りをしてから、「まあ勝てるだろう」などとつぶやいて、悠々と馬を飛ばして行くのである。
だから人には、「あれはもう負ける気で走っているから駄目だ」などと言われて笑われるのだが、そんなことを言われても平気でいる。そしてその通り飛ばして来るのだから、この藤岡という男は始末に悪いものだった。