その、くやし泣きに泣いた日から、数日後、或る雑誌社の、若い記者が来て、私に向い、妙な事を言いました。
「上野の浮浪者を見に行きませんか?」
「浮浪者?」
「ええ、一緒の写真をとりたいのです。」
「僕が、浮浪者と一緒の?」
「そうです。」
 と答えて、落ちついています。
 なぜ、特に私を選んだのでしょう。太宰といえば、浮浪者。浮浪者といえば、太宰。何かそのような因果関係でもあるのでしょうか。
「参ります。」
 私は、泣きべその気持の時に、かえって反射的に相手に立向う性癖を持っているようです。
 私はすぐ立って背広に着換え、私の方から、その若い記者をせき立てるようにして家を出ました。