コードネーム「OSO(オソ)18」、別の名を「忍者グマ」と呼ばれる最凶ヒグマをご存じか。3年前に北海道で発見されて以降、65頭もの乳牛を殺傷しているシリアルキラーだ。神出鬼没で酪農などへの被害も深刻。なんとか退治しようと闘う地元民の前に立ちはだかるのは、意外にも同じ“人間”たちだった。北の大地で今、何が起きているのか。その実態に迫る現地ルポである。

「この目でOSOを一番最初に見ました。クマは自分より高いところにいる動物を強いと認識するらしく、自分とクマの位置が逆だったら、ほぼ間違いなく死んでいたと思います」

 奇しくもクマを見下ろす格好だったゆえ、九死に一生を得たと振り返るのは、北海道標茶(しべちゃ)町の酪農家・高橋雄大さん(35)。2019年7月に、彼が最凶ヒグマと遭遇して以降、確実にOSOと断定できる個体を目撃した住民はおらず、貴重な第一発見者の証言なのである。

数千万円の損害が

 いったい地元の被害はいかほどなのか。そこで標茶町役場農林課に尋ねると、

「21年までの農家さんの被害ですが、牛の死亡や治療などにかかる費用から算出した額は約1900万円。牛を放牧中、被害があったため中止した場合に発生した牛の飼料購入費については約2千万円(想定額)となります。その他にも損害が発生しているかもしれませんが、町で算出しているのは以上です」