と思った時、赤色が、見えた。俺は全速力で走った。懐中電灯のわずかな灯りを頼りに走る。自分の足音の反響しか聞こえない。守衛室に戻りシャッターを閉める。特に後ろから何かが追いかけてきているような様子はなかったが恐怖で手足が震え、過呼吸に嗚咽がまじる。とにかく助けがほしくてすがる思いで本部に電話する。「赤色が、赤色が見えました!」と叫ぶ。すると「落ち着いてください、落ち着いてください、何が見えました?」と年配の男が宥めるように尋ねてくる。
「赤色が見えたんです!」
「何階で?」
「4階!」
「どんな感じ?」
「視界の端に、赤色が!」
「あぁ、視界の端に?奥じゃなくて?」
「視界の端!」
「あぁそうですか」
「え?」
すると男がゆっくりと話す。「今非常に、非常に縋るような気持ちだと思います。我々も今そちらに向かっています。安心してください。必ず救います。我々が来るまでそこから動かないでください。必ずあなたを救います。」電話が切れた。