ブラック企業からの洗礼やパワハラ地獄を味わってきた――。発達障害のひとつ自閉症スペクトラム(ASD)でうつ病も患うトシキさん(仮名、27歳)はこう訴える。ラーメン店や市役所の臨時職員、ホームセンターでの接客、コンビニアルバイトなど、これまで15回以上、転職を重ねてきたという。

全国チェーンのラーメン店では、体育会系の店長から「君がいるせいでみんな迷惑してんだよ!」「代わりはいくらでもいるんだからな」と突っかかられた。ある市役所では先輩職員から「あなたと一緒にいると胃がきりきりする」「むかつく」「消えればいいのに」と暴言を浴びせられたうえ、上司からは長時間にわたって背後で業務を監視された。

正社員として就職した会社では、先輩社員に質問しても「そんなこと自分で調べれば?」といじめられたり、机をたたきながら「余計なことをしないで!」と怒鳴られたりした。障害者枠で採用された自治体では、上司から「われわれには職務専念義務があるんだ」「障害があるとか関係ないよ!」とパワハラを受けたという。

1日で辞めたこともあれば、うつ状態になり、休職の末に退職したこともある。解雇も経験した。5年ほど前、精神科を受診し、発達障害と診断された。

ラーメン店では、同僚たちが注文の聞き取りやレジ打ちをそつなくこなす中、自分だけミスが多かった。自治体では、刷り上がったパンフレットの誤植部分に黒線を引くように指示された際、誤った部分を黒塗りにして100部ほど無駄にしてしまう。このときのことをトシキさんは「口頭で指示されたのですが、ここだったかな? と迷いつつもそのまま作業してしまった」と振り返る。

障害者枠で働いた自治体でのトラブルのきっかけは、トシキさんが服用していた薬剤の関係で頻繁にトイレに行かなければならないことだった。離席は1時間に1回、15~20分ほどだったという。たびたび席を外すトシキさんに向かって上司は「1時間に20分休憩を取っていたら、3時間で1時間になるんだぞ!」と怒る。これに対してトシキさんは「トイレの回数が多いことは事前に伝えています。生理現象なのに、回数や時間まで監視するのがパワハラではないでしょうか」と反論する。

トシキさんは自身のミスについて話すとき、不本意そうにみえた。私が「疲れましたか?」と尋ねると、トシキさんは強い口調でこう訴えた。

「責められるのは嫌いなんです。ミスは申し訳ないと思っていますが、障害があるんだから仕方ないじゃいないですか。好きでやっているわけじゃありません」